「Re:ゼロから始める異世界生活」と「86-エイティ・シックス-」という、ストーリーがものすごく面白くて感動してしまう作品を見た。この2作品は非常に面白かったが、作品の物語としては生と死・争い・残虐性などを含むもので結構重めの作品であった。
そんな重めの2作品を見た私は、次に見るアニメは癒やされる日常アニメを見ようと考えていた。
だってそうでしょう。重い作品を見たあとは心が滅入ってしまうため、日常的な癒やしや死を感じさせない平和な物語、そしてカワイイを求めてしまうもの。
「がっこうぐらし!」を見たあとに「ごちうさ」を見に行きたくなるあの気持ちと同じ。
そんなこんなでいつも通りAmazon Primeのアニメ一覧を見ていたらとあるアニメを見つけた。
タイトルからしてゆるそうで、おそらく重いストーリーではなく楽しく見られそうなタイトルだった。
そのアニメの名前は『山田くんとLv999の恋をする』
そういえば以前友人から面白い作品だと教えてもらった記憶があった。
うむ!!
これはいい!これがいい!!
そう思った私は早速このアニメを見始めたのだった。
ご注意
第一話のネタバレが多少含まれますが、致命的なものではありません。もし何も知らない状態で見始めたい方は、この記事を読む前に第一話だけでも先に見ていただけたらと思います。
あらすじ
彼氏がネトゲで知り合った女性と浮気し、そのまま別れを告げられてしまうというサイアクな出来事に直面した女子大生の木之下茜。話を合わせるためにネトゲをはじめていた茜の元に残ったのは、彼氏との愛と共に育んでいたはずのキャラだけだった……。
ストレス発散のため、ネトゲの狩り場で暴れていた茜は、たまたま遭遇した同じギルドの「山田」に失恋の愚痴をこぼすものの、「興味はないすね」と、そっけなく返されてしまう。だが、キレイになって元彼を見返そうと参加したオフラインイベントで、再びその言葉を耳にする。それが“山田”との、運命的な出会いだった――!
(アニメ「山田くんとLv999の恋をする」 公式サイトより引用)
アニメ開始直後、彼氏からフラレる主人公あかね
今作の主人公木下茜(以下あかね)は、アニメが始まった瞬間から彼氏にフラレてしまう。
恋をする作品だが、新たな恋物語を展開させるために、実っていた恋を散らせるとはなかなか衝撃的な始まりである。
しかもその理由は「やっているオンラインゲーム内で好きな人ができたから」である。
さらにそのゲームは彼女であるあかねも一緒にやっていたゲーム。
「どれだけ精神的にあかねちゃんを傷めつけるの!!」と、アニメ開始早々、視聴者があかねに同情をしてしまうところがこの作品の展開のうまさだ。だってもう最初からあかねというキャラクターに同情やら感情移入やらを引き起こしかねないからだ。
この作品の始まりのキャッチーさがまた良い。フラレてはしまったがそれに対する演出は重く見せていない。このアニメの方向性(重めの恋愛アニメなのか、コメディ的な恋愛アニメなのかなどの方向性)もこの時点である程度視聴者が予測できるようになっている。
あかねはフラレたあと、彼氏とやっていたFOS(オンラインゲーム)を開いてみる。しっかりとフレンド登録の解除もされており、用意周到な彼氏。
あかねは精神的ダメージにうんざりしながらも、ゲーム中で山田というキャラクターに出会う。
パーマがかったなんとも力の抜ける表情をしたアバターが、笑いを誘う。
この山田というキャラクターとの出会いがこの作品の本当のはじまりである。
山田!お前!テンション低すぎ!
色々あってFOSのリアルイベントに出向いたあかねは、とあるイケメン男子と出会う。
細身・長身・黒髪・キリッとした目つき・・・THE イケメンの登場である。体毛のうすそうなこのイケメンとTHE 普通の女子大生なあかねが不意にぶつかってしまう。
そこで手を差し伸べると同時に、脱げてしまったあかねのヒールを「大丈夫ですか」と低音ボイスでささやきかけるその姿に恋をしない女子は多分ほぼいない。
男でも多分惚れる。
こんなイケメンが同じオンラインゲームをしていると知ったらその日からウッキウキでニッコニコであるのは間違いないが、イケメンは正味興味がなさそうな立ち去ろうとする。
というかこのイケメン。言ってしまえば前述した山田なのだが、ま〜ぁこの男が本当にテンションが低い。
そして女性に興味がないのだ。私を含む世の中の非モテ男子諸君はもしかしてこれくらいの落ち着きを持っても良いのかもしれないと錯覚してしまうくらい落ち着いちゃっている。
山田が”FOS内で使うアバター”と”リアルの姿がイケメン”なギャップに笑いを誘われる。
第一話から恋愛的要素を出しながらも、コメディ的演出でゆる〜く気楽に見える作品であることが伝わってくる。
個人的注目ポイント
個人的にこんなところが良かった、とかこんなところに注目してみると楽しいかも、みたいなポイントを述べていこう。
デフォルメされたときの絵が可愛い
まず第一にこのアニメでは平常時の絵柄とは別に、コメディ的な場面になるとデフォルメされたゆるい絵柄に切り替わることが多い。まんまるな白目に豆つぶのような黒目。大雑把にかかれた口元と小さくなる頭身。このデフォルメされた絵柄がすごくいい。
アニメ全体を通してこのデフォルメ絵が多様されており、これのおかげで作品の雰囲気がより一層やわらかくなると同時に、この絵になるということはキャラクターになにか事件が起きても、心情的にそこまで重く捉えていないのだな、と視聴者にわかるようになっている。
このデフォルメ絵のおかげで様々な効果があるのだが、まぁそんな難しいことはおいておいても、ただただ可愛くてずっと見ていたくなる。そんな絵柄だ。
水瀬いのりさんの声に注目
主人公あかねの声優さんは、水瀬いのりさん。
「ご注文はうさぎですか?」のチノ、「Re:ゼロから始める異世界生活」のレム、「宇宙よりも遠い場所」の玉木マリなど相当な数のアニメで主役級の声を務める声優さんだ。
今まで私が見てきたアニメで水瀬さんが出演しているときは、だいたい高めの声質のキャラクターが多かった。だがこの作品では全く逆で、いつもよりも低めの落ち着いた声質で演じられている。
この落ち着いた声質をぱっと聞いて水瀬さんだとはわからなかったくらい今までとは違う。
リアルな日常生活を描く作風に合わせて、派手な可愛らしいアニメ的な女の子ではなく、実生活のリアルな女子大生を声でしっかりと表現しているところがさすが水瀬いのりさん、と言わざるを得ない。
あかねの声を聞くことで、水瀬さんの表現の幅を知ることができるので是非声にも注目して見てもらいたい。
エンディングがいい
まずこのアニメのエンディング曲である、清竜人さんの「トリック・アート」という曲がいい。
まるで夢の中をただようような雰囲気で、清竜人さんのウィスパーな歌い方がそれを特に助長させている。
ミュージカルのようなおしゃれなイントロが始まると、あかね視点で人混みの中を駆け巡る。
あかねはキョロキョロと山田を探す素振りだが、すれ違うばかりでなかなか追いつけない。
山田の表情はAメロ時点では見えないように演出されているのもにくいポイントだ。
Bメロでは山田とあかねの「言葉に対する認識の違い」が演出される。それでも細い綱を渡って山田に追いつこうとするあかねの姿が健気で、一生懸命で、あかねの切実な思いが伝わってくる。
そしてここで注目してほしいのは、細い綱を渡ってやっと山田に近づくことができたのに、あかねが握っているのは山田の手ではなく「山田が持っている杖」なのだ。これだけ近づいてもなお握ることができるのは山田とあかねの距離をいちまい隔てる杖。
まだ二人が完全にくっつくことはできないことを示唆しているが、だからこそあかねの気持ちが切実に伝わってくるし、謙虚さも見えてくる。
最後は山田の表情が映るものの、逆光であまり見えないようになっている。
最後まで「近いのに遠い二人の距離感」を演出することに徹したように思えるこのエンディング。
楽曲の歌詞に映像をかなり合わせながらも、しっかりとあかねの気持ちを表現したエンディングにも要注目だ。
何が面白いのか考えてみた
このアニメ、なにがどう面白いのか考えてみた。
山田とあかねの絶妙な距離感
この作品、山田とあかねの距離感が絶妙である。
あかねはアニメ開始冒頭から彼氏からフラレてしまう。これは一見山田との恋物語を生み出すために生み出された前座のようなものと思ってしまうが、この振られたエピソードがあるからこそあかねはすぐに恋愛をする気にはなっていない。
だからこそ物語中盤までは山田という存在に対して、あかねは気にはしているものの”無口ながらも頼りがいのある年下の男性”として接している。
恋愛的なアプローチをそこまでするわけでもなく、気さくな感じで友人のように接するこの時間はあかねと山田のお互いの恋愛感情に深みを与えてくれる。
日常の中で二人ともが嘘の仮面を被って接するのではなく、素直な二人のまま接することでお互いの本当の優しさや面白さが見えてくるし、日常の中にひょこっと出てくる一見なんでもないように聞こえる会話や行動が思い出となって蓄積されていく。
この微妙な距離感の日常が続く。あかねが山田に恋しているのかしていないのか、逆に山田もあかねに恋の感情が芽生えているのかいないのか、がこの作品の面白さにつながっているような気がする。
山田の心情
山田はそっけないし、女性に無関心だ。
キザな感じがするのに、そこまで嫌味がなく嫌いになれないのには理由がある。
彼は言ってしまえば「イケメン」というステータスを持った一般的な人間なのだ。
山田が女性に無関心(というよりも苦手)なのには理由があるし、そこには山田なりの悩みがある。自分のことをつまらないやつだと認識していたりするのも人間くさくて良い。
山田の性格は視聴者であるわたしたちにも共通する部分が少なからずあって、山田という人間を理解することができてしまうが故に、キザで嫌味なやつだと思うどころか人間臭くて好きなやつにすら思えてくる。
また山田の女性に対する無関心さが、あかねによって少しづつ少しづつ変化していくのも面白さにつながっている気がする。
つまり山田の心情の変化を観察する面白さがこの作品にはあるのではないかと思う。
その他にも様々なキャラクターとの絡み合い
あかねと山田以外の登場人物たちもまた魅力的だ。
FOS(オンラインゲーム)内の瑠璃姫ちゃんや、瑛太くん、鴨田さん、瑠奈ちゃんなどゲームを通じて出会う人々との小気味よいコメディタッチな会話劇がゆるくて面白い。
これらの登場人物はあかねと山田の物語を補佐してくれる人たちだが、彼ら自信にもそれぞれの魅力があって見ていると愛着が湧いてくるのもまた良いポイントだ。
バランスがすごく良いラブコメだった
山田、あかねの二人、そしてその二人の周りを補佐する人々。
そして恋愛とコメディ、それらの全体的なバランスが上手いこと取れているので本当に気兼ねなくサラッと見れる割には印象に残る面白いアニメだった。
日常、ラブコメ系が好きな人にはおすすめしたい作品「山田とLv999の恋をする」、ぜひ見てみてほしい。